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大阪高等裁判所 昭和24年(を)1129号 判決

被告人

木村芳雄

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役十月に処する。

理由

原審檢事の控訴趣意は要するに、原審は昭和二十四年三月八日被告人を懲役一年に処する、但し三年間右刑の執行を猶予する旨の判決を言渡したが、被告人は昭和二十三年一月二十二日神戸地方裁判所で窃盜罪により懲役十月に処する、但し三年間右刑の執行を猶予する旨の判決言渡があり同判決は確定しているのであるから、原判決は違法があると言うのであつて、弁護人塩見米藏の答弁は檢事主張の事実はそのとおりであるが、被告人の前科については原審判決期日以前に原審檢事に発見し得られ、その資料を原裁所判に提出して取調を求むることができたのに、これをしなかつたのであるから原判決に違法ありと爲すことを得ないと言うのである。

原審公判調書、当審檢事提出の前科取調書、前科調書、檢事第一回供述書および疎明書(三通)によると被告人は昭和二十三年一月二十二日神戸地方裁所判で窃盜罪により懲役十月に処し三年間執行を猶予する旨の言渡を受け同月二十四日確定したこと、原審公判廷において被告人は前科が無い旨を述べていたこと、しかるに一方神戸檢察廳からの照会に対する大阪地方檢察廳の前科取調書が昭和二十四年二月十九日に神戸地方檢察廳に返戻されたが、同廳事件係から主任檢事の手許には原判決言渡後回付されたため檢事は事実上原審弁論終結前にこの前科の取調を請求することができなかつたことなどが窺はれる。そして山積する事件数と職員の手不足などの顯著な実情に鑑みるとかくのごとき檢察廳内における連絡の不円滑のさまは諒せられるところである。

しからば右前科のあることを原判決当否の判断の資料となし得ることは刑事訴訟法第三百九十三條の趣旨によつて明らかであつてこの前科があるにかかわらず原審が被告人に対しては執行猶予の言渡をしたのは結局刑法第二十五條の運用を誤つたこととならざるを得ない次第である。檢事の論旨は理由があるといわねばならぬ。

よつて刑事訴訟法第三百九十七條に從い原判決を破棄すべきところ当審において直ちに判決を爲すに遍するから同法第四百條により次のとおり判決をする、原判決が証拠によつて確定した事実は刑法第二百三十五條第六十條にあたるから、その刑期範囲内で被告人を懲役十月に処すべきものである。

よつて主文のとおり判決をする。

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